ELIZABETH II · DAIMLER SUPER V8
女王の一台
エリザベス2世が所有したデイムラーは、じつは2台ある。緑と青、たどった道はまるで違いました。
X308という車を語るとき、どうしても触れたくなる一台があります。エリザベス2世女王が所有していた、デイムラー Super V8。X308系の最上級モデルです。里親の章で支援している車でもあるので、ここで少し丁寧に書いておきます。
王室とデイムラー
まず、デイムラーという名前について。これはドイツのダイムラー(メルセデス)とは別の、英国の高級車ブランドです。英王室との付き合いは古く、1900年にエドワード7世(当時は皇太子)が初めて購入して以来、王室御用達として長く愛用されてきました。1960年にジャガーがデイムラーを買収したあとも、その関係は続きます。
だからX308系のデイムラーを女王が持っていたことは、歴史の流れとしてはごく自然なことでした。100年続いた、王室と一つのブランドの付き合い。その末期に位置するのが、このSuper V8です。
女王のデイムラー Super V8は、
じつは2台あった。
メディアによって「緑だ」「青だ」「走行1万5千マイル」「7千マイル」と数字が食い違うのは、この2台を混同しているからでした。整理すると、こうなります。
1台目・緑
Y694 CDU
British Racing Green | 競売へ
- 年式
- 2001年
- 走行
- 約15,000マイル
- 2013年競売
- 約45,000ポンド
- いま
- 個人所有
2台目・青
BK52 DLO
Blue | 保存へ
- 年式
- 2002年
- 走行
- 約7,000マイル
- 現在
- JDHTが保存
- 里親
- 当サイト
出典:Jaguar Daimler Heritage Trust 公式(BK52 DLO)、Classic Driver ほか競売記録(Y694 CDU)。
緑の一台に伝わる逸話
女王のデイムラーというと、よく語られる逸話があります。ハンドバッグを置くために延長された後席のアームレスト。新鮮な空気を好んだ女王のための、後席用の追加ウィンドウスイッチ。そして護衛との連絡に使う、フォグランプ内に仕込まれたブルーのストロボライト。
ただ、これらの逸話は競売カタログなどに記録されたもので、1台目(Y694 CDU、緑のほう)に帰属する話として流通しています。この個体は2013年に競売にかけられ、4万5千ポンドほどで落札され、いまは個人の手にあるようです。
王室を離れた一台が、市場を経て、誰かのガレージにいる。それはそれで、英国らしい余生だと思います。
ここに写るのが、青のBK52 DLO。走行はわずか約7,000マイル。海の向こう、ゲイドンのJDHTに保存されている一台です。
Jaguar Daimler Heritage Trust より
そして、青の一台に
2台目(BK52 DLO、青のほう)は、ジャガー・デイムラー・ヘリテージ・トラスト(JDHT)にいまも保存されています。2002年式、走行はわずか約7,000マイル。そして、このサイトが里親として年40ポンドで保存を支援しているのが、この青の個体です。
正直に書いておくと、緑の一台に伝わる特注の逸話が、この青の個体にもあるのかどうかは、JDHTの公式情報では確認できていません。同じ「女王の専用車」ですから、似た配慮がなされていた可能性はありますが、断定はしないでおきます。確かなのは、女王が持っていたX308系の最上級車が、いまも英国で大切に保たれていて、その保存にほんの少し関わっている、ということ。
ガレージにいるのは、同じX308系のエグゼクティブ。海の向こうのゲイドンには、同じ血統の、女王の一台。詳しくは里親の章に書いています。
参考資料:Jaguar Heritage — 2002 Daimler Super V8 Saloon(BK52 DLO・一次)/Classic Driver — Queen’s Daimler Super V8 LWB(Y694 CDU・競売)/The Gentleman’s Journal — Queen Elizabeth II’s Daimler
007とX308
悪役は、なぜ目立たない高級車に乗るのか。