X308 · WOOD & LEATHER
木と革と
4灯の佇まい、ウォールナットの杢、消えゆく英国の革。手で触れる部分を見ていきます。
X308の魅力の半分は、走り出す前にあります。ドアを開けて乗り込んだ瞬間の、木と革のにおい。手のひらに触れるウォールナットの艶。この車は、停まっている時間にも価値があるタイプの車です。
ライオンズが遺した形
丸みを帯びた4灯のヘッドライト、低いルーフライン、後ろへ傾いだテール、回り込んだリアランプ。このシルエットの源流は、1968年の初代XJ6にあります。創業者サー・ウィリアム・ライオンズが自らデザインし、彼の最後の傑作と言われる一台。その造形言語は、程度の差はあれ、すべての世代のXJに受け継がれていきました。
そして、その言語をはっきり識別できる形で保った最後の世代が、X308です。次のX350からはデザインの連続性が断たれていきます。つまりX308は「ライオンズが遺したXJの顔」の、最終形でもあるわけです。
前型X300との見分けは細部に出ます。フロントのウインカーが長方形から楕円形に変わり、フォグランプやバンパーがより丸みを帯びた。リアランプはレッド/グレーからレッド/クリアへ。派手な変更を避け、XJらしさを崩さずに手を入れた——その控えめさが、かえって品の良さになっています。デイムラー系だけは、伝統の縦溝(フルーティング)グリルとトランクの装飾で、ひと目でそれとわかります。
三つの丸いメーター
X308で最も大きく変わったのは、実はダッシュボードです。XJ40時代から10年以上ほとんど変わらなかった角張った計器まわりが、ここで一新されました。ウォールナットのパネルに、深く凹んだ三つの丸いダイヤルが彫り込まれます。同時期に出たスポーツカーXK8と呼応する、新しい意匠です。
ささやかですが嬉しい変化もありました。XJ40時代に助手席エアバッグの追加で消えていたグローブボックスが、この刷新で復活しています。木目のダッシュに、機能がきちんと収まる。古めかしいだけの内装ではない、ということです。
一本の木を、一台の車のために開いて貼る。
バールウォールナット
ウッドトリムはグレードで格が変わります。XJ8やエグゼクティブは標準のウォールナット、スポーツは少し明るいメープル。そしてソブリン以上になると、「ハイリー・フィギュアード・バールウォールナット」——杢(もく)の濃く複雑に入ったウォールナットが、ダッシュボードからウィンドウスイッチのパネル、灰皿のトリムまで、客室の全幅にわたって張り巡らされます。
バールは木のこぶの部分で、模様が一枚として同じになりません。鏡面に磨き上げられたパネルの表情は、文字どおり世界に一台分。さらにソブリン以上では、後席のピクニックテーブルにもウォールナットを使い、しかも同じ木から取った突き板を左右対称(ブックマッチ)で合わせる、という凝りようです。一本の木を、一台の車のために開いて貼る。そういう仕事がされています。
消えた革、コノリー
シートの革にも物語があります。英国のコノリー社(Connolly Leather、1878年創業)は、ジャガー、ロールスロイス、ベントレー、アストンマーティンなど、英国高級車の内装を長く支えた皮革メーカーでした。X308では、最上級のデイムラー/ヴァンデンプラスに、コノリーの最高品位「オートラックス(Autolux)」——粒感が少なく、しなやかさが際立つ革が使われています。
そのコノリーが、2002年6月に廃業します。X308の生産は2002年12月まで続いていました。在庫の消化次第ではありますが、後期のX308は事実上「コノリーレザーを纏った最後のジャガー」になった可能性が高い。次のX350は別のサプライヤーに切り替わっています。
エンジンは「V8の最初」、革は「コノリーの最後」。X308は、終わるものと始まるものが、内と外でちょうど交差した世代でした。シートに座って、これが消えた英国の革かもしれない、と思う。それだけで、ただのセダンが少し違って見えてきます。
グレードの肖像
XJ8から王室のデイムラーまで。当時の評価と、いまの相場。