X308 · THE AJ-V8 ENGINE
AJ-V8という心臓
ジャガー初の量産V8、Jゲート、5速AT。数字と、走らせたときの感触まで。
X308のボンネットを開けると、ジャガーが初めて量産した自社製V8、AJ-V8が収まっています。直6でもV12でもない、この車のために生まれた新しい心臓です。
36か月で生まれたV8
AJ-V8は、コベントリーのジャガー開発センターで設計されました。設計要件は「衝突安全のため短くコンパクトであること」「暖機を速め排ガス規制に応えること」「最大出力・軽さ・低振動を両立すること」。最初のテスト点火は1991年11月、1993年に正式承認、そこからわずか36か月で完成品が登場しました。1996年にスポーツカーのXK8で先にデビューし、翌1997年、このX308(XJ8)に積まれます。
余談ですが、AJ-V8は後にフォードのリンカーンLSやサンダーバード、さらにアストン・マーティンのV8ヴァンテージにも使われました。「フォードのV8でしょ」と言われることがありますが、話は逆で、ジャガーが設計したエンジンをフォード系が後から使った、というのが正確です。
3.2と4.0、そしてXJR
自然吸気は3.2Lと4.0Lの2本立て。どちらもV8・DOHC・32バルブで、4.0Lはボアはそのままにストロークを延ばして排気量を稼いでいます。最上位のXJRは、4.0Lにイートン製スーパーチャージャーを組み合わせて370psに到達。圧縮比を8.9まで下げて過給に備えた、性格のはっきりしたエンジンです。
可変バルブタイミングは年々洗練されていきました。初期のAJ26は吸気側を2段階で切り替える方式、AJ27で連続可変に、AJ28ではECUごと刷新されてさらに精密になっています。同じV8でも、年式によって中身は進化している、というわけです。
| 型式 | 排気量 | 最高出力 | 過給 |
|---|---|---|---|
| 3.2L V8(NA) | 3,252cc | 240hp | — |
| 4.0L V8(NA) | 3,996cc | 290hp | — |
| 4.0L V8(XJR) | 3,996cc | 370hp | スーパーチャージャー |
ボア×ストローク:3.2L=86×69.6mm/4.0L=86×86mm。出典:Wikipedia(AJ-V8)、motor-car.net ほか。※排気量は日本のカタログ値(3,252cc)。英語圏の資料では3,248cc・240hp表記も見られます(測定基準の違い)。
Jゲートと、5速AT
自然吸気モデルのトランスミッションは、ドイツZF製の5速AT「5HP24」。ジャガー車に載った初めての5速ATで、同じ時代のBMWやアウディ、レンジローバーにも使われた高級車共通のユニットです。XJRだけは過給に耐えるメルセデス・ベンツ製のATを使っています。
そしてX308の操作系で忘れてはいけないのが、Jゲート。セレクターのゲートが「J」の字をしていて、縦の長辺にP・R・N・D、横の短辺にギアを手動で保持するポジションが並びます。Dから左へ倒すと、任意のギアにホールドできます。ATの楽さを保ちつつ、必要なときだけ自分でギアを選べる、という思想です。
これを考えたのはジャガーの技術部長ジム・ランドル。彼の名にちなんで「ランドルハンドル」とも呼ばれます。初採用は1986年のXJ40で、X300、X308と受け継がれ、後の世代でダイヤル式に変わったときには、ファンから惜しむ声が上がりました。手のひらでJの字をなぞるあの操作は、今ではクラシックジャガーを象徴する仕草のひとつです。
この二面性が、X308 XJRの魅力です。
走ったときの感触
数字だけ見ると穏やかな車に思えますが、評判はそうでもありません。当時の試乗記では、アイドリングは「より静かで深みのあるバリトン」と評され、走り出すと「BMW5シリーズより小さく感じる」ほど扱いやすく、それでいて乗り心地は「先代を恥じ入らせる」レベルだと書かれました。大きなボディの割に、運転していても持て余しません。そこがこの車の地味な美点です。
XJRはまた別物で、ある海外メディアは「大きな金属の拳を、カシミアの手袋で包んだよう」と表現しました。荒々しさを上質さで包む——スーパーチャージャーが回転とともに獰猛に唸りながら、車内は静かで穏やか。この二面性が、X308 XJRの魅力です。
私自身が走らせて感じたことは、これから日誌に少しずつ書いていきます。数字や評論より、その日の実感のほうが、たぶんこの車のことを正しく伝えると思うので。
木と革と
バールウォールナットと、2002年に消えた英国コノリーの革。